大学紹介 Guide学⻑メッセージ⾔伝

2026.06.30

座右の銘と一冊の本

 今年も「追手門アイデンティティ」の授業にゲストスピーカーとして登壇してきました。ただ、1クラスはあのダブル台風で休講になりました。
 「野分」という言葉があります。台風を指すとされています。例えば『源氏物語』の「野分」の帖には「風はまことに巌をも吹き上げかねないもの」「御殿の瓦までが一つ残らず吹き飛ばされそうな勢い」「六条院では離れの建物が倒れた」(谷崎潤一郎『新々訳源氏物語』)などとその激しさが描写されています。「東北(うしとら)の方から吹きます」と、風向きまで書かれています。
 さて、火曜日のクラスで「座右の銘」を問われ、「無い」「常に変えている」と答えたことへのコメントが多く寄せられました。
 何か良い言葉を常に意識することは大事です。私も毎年正月に、今年1年の合言葉を決めることはしています。「脱皮」「再起」「新時代」「進取」など、多くは変化や成長を誓うものです。例えば「今年こそ、次のステージへ」などと宣言して、「座右の銘」が毎年同じでは、「次のステージ」には移れないと思うわけです。
 ちなみに今年の言葉は「アップグレード」です。
 お薦めの1冊の本についても、よく似たことを考えています。
 私は日本近現代文学が専門なので、本はよく読む方です。特に小説については、読んだものには大体感心し、時にいたく感動します。賞を取った小説や話題の作品などは、大概素晴らしいということになり、それらもたくさん読んできたので、たった1冊の本を選ぶことは、正直に言って、実に難しいのです。
 また、そもそも、内容やストーリーを楽しむというよりも、研究対象として小説などを読む癖がついているので、予めの好き嫌いや良い悪いの評価はあまりしないようにしています。
 加えて、同じ作品であっても、見る角度によって様々な相貌を見せてくるのも確かです。
 1冊の本を選んだり、順位をつけたりのではなく、むしろ、まずはすべての作品に良いところを探す、このことから始めると、世の中の見え方も少し変わってくるのではないでしょうか。  
 『枕草子』には、「野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ」と書かれています。台風一過の荒れ庭にも美を見出すようなものの見方、素敵だと思いませんか。