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2020.09.24

専門分野と異分野の知について

 著名な臨床心理学者で、日本文化にも詳しく、文化庁長官も務めた河合隼雄が、『ココロの止まり木』という本の中で、京都国立博物館の文化財保存修理所を見学した際の布の補修についての話を紹介しています。

 修復する時に、補修用の布がもとの布より強いと、それはもとの布を結果的に傷めることになる。そこで、補修する布は、もとの布より「少し弱い」のがいいが、その加減が難しい、と説明される。

 この話を聞いて河合氏は、「ここで行われていることと私の仕事とが非常に似たことに思われてきた」と書きます。「私の仕事」とは、カウンセリングのことです。
 文化財補修とカウンセリングは、一見すると全く別世界のことですが、こうして並べてみると、実に示唆的です。カウンセラーが強すぎると、相談者が傷ついてしまう。これは、教員と学生の関係や、先輩と後輩、コーチと選手など、さまざまな場面に応用できる言葉だと思います。河合氏は大学卒業後、高校教師になった当初にも、「張り切ってやっているのに、生徒たちの成績が思ったほどよくならない」ことがあり、かなり経ってから、「私の意欲やエネルギーが強すぎて、逆に生徒たちの成長の力を萎えさせて」いたことに気づいたとも述べています。そのような経験と、カウンセリングに生涯こだわる河合氏が、文化財保存などにも興味を持ったために、このような理解と類比が可能になったわけです。

 本学では、学部の専門科目と共に、基盤教育科目をも重視したカリキュラムを組んでいます。これは、日本流のリベラル・アーツの考え方に基づいています。異分野との交流の中で専門分野の学識を深めること、あるいは、全く違う分野をまたぐような発想をすることで、新しい何かに気づくこと、そのような学問的な化学反応を期待するためです。

 実は文化財補修の話は、小川洋子という作家の『物語の役割』という本で知りました。小川洋子の本は、社会学部の富田大介先生に教えていただきました。広い方向に興味を開放していると、いろいろな方面から情報がどんどん集まり、つながっていきます。このような連鎖の楽しみを、皆さんにもぜひ体験していただきたいのです。これも日本流リベラル・アーツです。

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