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2022.06.01

同級生バイアス

 5月29日は学院の創立記念日でした。皆さん、そう意識して過ごしましたか。
 その前日28日、大学校友会の結成50周年記念式典・祝賀会がありました。参加者400名を超える大きな催しで、あちらこちらで「学生時代とぜんぜん変わらへんなあ」などの言葉が交わされていました。
 第1期生ならば卒業後50年以上経っています。多くの方々が、何年、何十年ぶりの再会です。さすがに「変わらない」はずはないのですが、ご本人たちの目には、実際にそう映っているようなのです。
 私はこれを、「同級生バイアス」と呼んでいます。同じ月に私も満60歳の誕生日を迎えましたが、10年前、出身高校の50歳記念の同窓会で、卒業後久しぶりに会う同級生が、最初は誰だかよく分かりませんでした。そのうち、名前やクラスなどの周辺情報がわかると、その顔が、高校時代のそれに見えてきました。実に不思議な体験でした。

 森鷗外の小説を題材にした「ぢいさんばあさん」という新歌舞伎があります。私はこれが大好きで、当代の片岡仁左衛門と坂東玉三郎のコンビなどで何度も見てきました。
 登場するのは美濃部伊織とるんという仲睦まじい夫婦ですが、いろいろあって、伊織が単身赴任先の京都で起こした事件のために、37年もの間、別々に暮らすことになります。やがて赦されて江戸の元の屋敷で再会することになるのですが、その場面に「同級生バイアス」らしきものが描かれています。
 再会した2人は、既にどちらも白髪の老人で、懐かしい家で相手を見かけても、お互いにそうだとは気づきません。しかし、伊織が鼻を執拗に触る癖をるんが見て、「あなた」「るんか」とお互いを認めることになります。それからは、37年前の若い夫婦のように、観客が恥ずかしくなるほど睦みあいます。

 我々が相手に見るべきものは、外見ではなく、多層にわたる周辺情報を加えた総合的な姿のはずです。しかし、20世紀以降、人間は視覚情報に頼りすぎていて、記憶や五感による雰囲気など、他の重要な要素を切り捨て、正しい姿が見えなくなっているようです。
 皆さんは、在学中に、何十年も後になっても契機さえあればすぐに思い出せる友人関係や人間関係を、たくさん作っておいてください。還暦同窓会や校友会100周年が楽しみになりますよ。

5月28日に行われた大学校友会 結成50周年記念式典・祝賀会

400名が集った式典会場

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