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2020.10.22

No.26 襖絵の虎は実在するのか

 政府の旅行や食事推奨が話題になっています。大阪の街も賑わいが戻ってきましたが、その一方で、いくつかの大学で新たな感染クラスターが生じ、なかなか問題の出口が見えません。皆さんは今、納得できる形で自らの行動を管理できていますか。マスコミやSNSの情報に頼るだけでは不十分であることにも、改めて気づきましたか。問われているのは、自分の判断力です。

 泉屋博古館の「瑞獣伝来」展と、あべのハルカス美術館の「奇才」展にでかけてきました。三密を避ける対策が徹底されていることもあり、ゆったりと、そしてじっくりと鑑賞することができました。
 「瑞獣伝来」展は、龍と虎と鳳凰の絵画や青銅器などが一堂に集められたものです。「奇才」展にも、多くの絵師が描いた龍や虎の絵が展示されていました。虎は龍と並び定番の図像です。この虎の絵を見ながら考えました。一体これは、あの動物園にいる虎なのだろうか、と。

 龍と鳳凰は想像上の存在とされています。これと同様に、江戸期以前はほとんどの日本人が本物の虎を見たことがありませんでした。となると、虎も、龍や鳳凰と同様の未知の驚きを人々に与えたはずです。
 一度でも本物の虎を見た人ならば、絵の虎も動物園の虎と同じであると考えるでしょうが、虎が神秘的な存在であった時代の人々を対象に描かれたこれらの絵を鑑賞するに当たって、本当にそれでいいのでしょうか。ちょうどキリンビールのラベルの麒麟と動物園のキリンのような関係が、襖絵の虎と動物園の虎との間にも認められるのではないでしょうか。虎の絵を見るときだけは、本物と似ている、似ていないなどといった比較の視線で見てしまっていますが、これも正しいでしょうか。

 美術展には、このような思考のきっかけとなる魅力が潜んでいます。それゆえ文化に触れることは人間にとって必須の行為です。ただしそれをがむしゃらに優先したが故に、自分や他人の健康を害しては、せっかく得た見識を次の段階につなげることもできません。大学生活も同様です。

 より厳しく現状を認識し、自らのあるべき活動の環境づくりを自らの判断で行ってください。寺院の襖絵の中の虎や龍は、そのために人々を睨みつけているのではないでしょうか。

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