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2023.06.08

忙中閑あり

 先日、本学の卒業生で、古典芸能長唄の唄方の杵屋東成さんの、人間国宝認定をお祝いする会に出席してきました。初めに演奏があり、そのとても素敵な声にまず圧倒されました。
 東成さんの双子の弟さんで長唄三味線方の杵屋勝禄さんも、揃って本学4期生です。当日は、本学客員教授のコシノヒロコさんもお見えでした。コシノさんは、実は勝禄さんのお弟子で、杵屋勝禄女という名の三味線方というもう一つの顔をお持ちです。

 さて、この会をはじめ、5月は、公的なもの私的なもの(誕生月でした)、大小さまざまの会合やパーティーが10回ほどあり、とても忙しい一箇月でした。他に旅行が1回、東京出張が3回、うち2回は日帰りでした。
 そんな合間を縫って、歌舞伎の平成中村座の姫路城公演昼の部を見、前回紹介したピカソ展に加え、あべのハルカス美術館に「幕末土佐の天才絵師-絵金」展を見に行き、久しぶりに完全休日となった土曜日には表現者工房プロデュ―スの演劇落語(落語のネタを矢内文章さんと坂口修一さんの二人演劇で見せる)と月亭遊方さんの落語とのコラボ公演を見に行き、6月に入ってからも、大阪中之島美術館に「佐伯祐三-自画像としての風景」展も見てきました。
 「忙しいなら休めばいいのに」「無駄に元気やなあ」「美術や演劇を見て何か役に立つの?」などという趣旨の声も時に聞こえてきます。

  山路を登りながら、こう考えた。
  智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。

 これは夏目漱石の「草枕」冒頭の有名な一文です。では、住みにくければどうすればよいか。主人公の画工は、しばらく後の部分で、次のように考えます。

  越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容(くつろげ)て、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降(くだ)る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊い。

 要するにこれは、画家である主人公の自負でもありますが、芸術の一般的な存在価値の謂いでもあります。
 我々も、どれだけ忙しくとも、心だけは大いにくつろげて、のどかに、しかも豊かにいきたいものですね。


 「安全を考える日」に

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