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2020.10.08

聞き上手であることの効用

 世の中には話し上手な人と聞き上手な人がいます。話し上手といえば、褒め言葉のようですが、口が巧い、と言い換えればわかるように、時に貶し言葉にもなります。それに比べて、聞き上手な人、というのは、概ねいい印象に終始するような気がします。
 先日、経済学部の佐藤伸行先生が毎年行われている新聞プロジェクトの取材で、寒山あゆさん、澤井隼人君、二宮裕介君、宮崎彩乃さんの四人が、学長室にインタヴューに来てくれました。この新型コロナウィルス感染拡大に際しての大学の運営方針などを中心に、さまざまな質問を受けました。終始礼儀正しい態度でしたが、質問内容には、安威キャンパスの駐車場やグラウンド変更の件など、シビアなものも含まれていました。また、一個人として、人生で最も楽しかったことや悲しかったことについて聞かれ、あまりうまくも面白くも答えることができず、申し訳なくも思いました。
 彼らは、質問しながらまっすぐに私の顔を見てくれていました。もちろん鋭い目つきというわけではなく、相手を油断させてしまうようないい視線でした。口調も実に丁寧で和やかなものでした。
 このような取材の場合は、ついよけいなことまで話したくなってしまいます。
 太宰治が、「一日の労苦」という小品に、次のように書いています。

 君の聞き上手に乗せられて、うっかり大事をもらしてしまった。これは、いけない。多少、不愉快である。
 君に聞くが、サンボルでなければものを語れない人間の、愛情の細かさを、君、わかるかね。

 四人の学生に対しては、これに近いような気持ちを持ちました。わかっていただけますか。
 国枝史郎という作家が、同じ作家仲間の小酒井不木の横顔をスケッチした「名古屋の小酒井不木氏」という文章に、彼がなぜ名古屋で「寵児」となったのかについて、「趣味が多方面であり、話が聞き上手であり、性質がさっそくであって渋滞せず、感情的で無くむら気でなく、理性的であって親切であり、絶対に信頼される人」だったからと述べています。これらの性質は、すべて繋がっているようです。
 結果、聞き上手は、予定していた以上の情報を得ることができます。その意味で、彼らは記者として、実に優秀だったと判断されます。

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