大学紹介
2025.09.19
長い夏休みも、あと残すところ少しとなりました。まだまだ暑い日が続いていますが、少し秋の気配も感じます。皆さんの夏は、どのようなものでしたか?
休暇中に具体的に何をしたか、も、もちろん大事ですが、それによってどんな気持ちになったか、何を思ったか、など、付随する感情やそこから始まる思考などを殊更に意識することはさらに大切です。それが、いわば、出来事が「物語」になる瞬間です。
「もの」という言葉は、通常、単一で具体的な「物」を指しますが、「夏は、どのようなものでしたか?」の「もの」が指す「夏」には、空間的または時間的な広がりがあり、この質問に一言で答えることは、なかなか困難ですね。例えば、「シンガポールに旅行した」「万博に行った」など、出来事の断片を言うことは簡単ですが、それに付随する、一連の雰囲気や気持ちの流れなどを振り返り、一括りにして表現するためには、全体をまとめ上げる力が要るからでしょう。
ところで、このような一定の幅を持つ「夏」の出来事などを尋ねるならば、「皆さんの夏は、どのようなことでしたか?」と言ってもよさそうですが、あまりそのような言い方はしませんね。これは、「もの」と「こと」とが、形式名詞として、対象によって使い分けられるような言葉ではなく、それぞれもっと奥深い言葉だからです。
例えば、言語学者の池上嘉彦は、「あなたのことが好きです」という表現について、これを英語に訳す際、「こと」の意味合いを加えるのは難しいという主旨のことを云っています。確かに、「あなたが好きです」と「あなたのことが好きです」とでは、微妙にニュアンスが異なります。「あなたのこと」の方が、対象をやや曖昧にしながら、表現を柔らかくする働きがあるようです。この曖昧さやぼやかしの表現は、多くの場合、日本人が好むもののようです。
「もの」という語も同様です。例えば「悲しい」と「もの悲しい」とでは、後者の方が、悲しみの理由がはっきりしない様子を強く表していると考えられます。
「こと」や「もの」だけでも、追究すると、こんなに話題が広がります。言葉の研究を面白いとは思いませんか。
もう一度お尋ねします。皆さんの夏は、どのようなものでしたか?
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